• 息子へのしあわせ返し

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    息子が中学3年生の時、初めてプレゼントをくれました。
    母の日でした。お母さん、これ…。
    ぶっきらぼうな口調と一緒に、息子からの生まれて初めてのプレゼントは、白地のバラの柄のエプロンだった。

    「息子はケンカ三味の中学生だったし、きょとんとしている私に、今日は母の日だって言われました。」
    突然の息子からのプレゼントに、とっさには言葉も出なかった。

    彼女は二人の子供が小学生のときに離婚している。上は二つ違いの女の子。

    「娘の方は親に心配かけることなく、育ってくれたんですが、どうも下の方が……」と苦笑いを浮かべる。
    息子のケンカが原因で家庭裁判所騒ぎにまでなったこともある。
    「でも、唯一の救いは弱いものいじめではなかったこと。だから私も母子家庭でがんばれたのかな」
    それだけに息子からのプレゼントには驚き、涙が出るほどうれしかった。

    「そのときは素直に、ありがとうの言葉を出せなくて……どうしたのなんて言ってしまった覚えがあります。」

    そんな息子も高校生の半ばにはケンカも少なくなり、あの母の日から十数年経ったいま、息子は結婚し、しっかりした家庭を築き、彼女にはかわいい孫もできた。

    彼女には密やかな計画がある。

    彼女は母親を高校生のときに亡くし、それからは父と娘の生活が始まった。

    しかし、父娘関係は決して良好なものではなかった。
    娘は父親のやることに反発し、父親は娘のいちいちに口を出す。そんな父親を理解できるようになったのは、自分が子供を持つてからだった。

    父親をガンで亡くしたとき、なんで父親に素直になれなかったんだろうという後悔と、父は自分のことをどう思って死んでいったのだろうという思いで胸が締め付けられた。

    「だから、息子には自分の気持ちをキチンと伝えておきたいの」

    でも、今さら口に出していうのは照れくさい。だから、あのエプロンに「ありがとう」の文字を添えて残しておくのだという。

    「いつか息子がそれを目にしたとき、どんな顔をするか見てみたい気がする」と彼女は笑みを浮かべる。

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