• 再婚と『シートン動物記』

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    「いつか売れる小説を書くんだ」と正業にも就かずにいた夫が、結局彼女と三歳の娘を世いて家出。
    正式に離婚した元中学校の国語教師(57歳)は2年後、同僚の教師から、同じく連れ子を持つ再婚相手を紹介された。

    「相手は奥さんを早くに亡くしたサラリーマンで、小学校三年生の息子さんがいる方でした。
    日ごろ生徒に接していることもあって、子供の扱いには自信のあった私ですが、さすがに再婚相手のお子さんとなれば、話は別です。
    紹介してくれた同僚の家で、再婚相手の人とその子供に初めて会うことになり、当日まで緊張の毎日が続きました。
    そこで挨拶代わりに、その息子さんに何かプレゼントを用意していこうと思ったのですが、何にするか迷いました。

    縁談がまとまったわけでもないのですから、それほど気をもむこともないし、
    どんな子供なのか皆目見当もつかないのですが、とりあえず気に入られるためには、
    何かおもちゃがいいのか、それとも中学校の教師らしく学習に関係したものにしようか考えた末、
    私が持参したのは『シートン動物記』の一巻目でした。

    中学生と小学生の違いはありますが、自分の担任のクラスの子を思うと、本をもらって素直に喜ぶ子もいれば
    "本かよお、読まねえよ"といって、
    いままで本など漫画以外読んだことのない子もたくさんいるのをわかっていましたし、
    ある意味、一種の賭けではありましたね」

    当日、その息子と対面して『シートン動物記』を渡した。
    ありがとう。でも、ぼくこれ持ってるんだ。
    じゃあ、おばちゃんが本屋さんで二巻目と取り替えてきてあげるね。
    ついでに三巻目もプレゼントしましょうか。

    「あわてながらそう言うと驚くほど喜んでくれて。
    後日、夫が話してくれたのですが、あの子は"ぼくの大好きな本のことをなんで知ってるんだろう"と
    すごく気に入ってくれたそうです。
    新しい母子関係もスムーズに築けましたし、そういう意味では思いがけないしあわせだったと思います」
    その息子はいま、ある出版社で絵本の編集に携わっている。

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