• 祖母をきずつけてしまった

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    人をきずつけてしまう贈り物がある。
    それでもあえて贈るのは、使って欲しいと思うからだ。
    東京・目黒に住む彼女(二七歳)にはおじいちゃんとおばあちゃんがいる。
    共に八〇歳を超えているが、気はいたって若い。
    しかし、気は若くても体は衰えていく。ことにおばあちゃんは足元がどんどんおぼつかなくなってきた。
    しょっちゅうよろけたり転んだりする。

    幸い、骨が丈夫なのか、骨折という大事にはなっていないが「青タンをつくってはケガ自慢をするような祖母なんです」という。

    本人はそうでも、見守っている方はたまらない。

    そしてとうとう、結婚当初から三〇年来同居している長男の嫁が、シルバーカーの購入を提案した。
    年配の人や足や腰の弱い人が出歩きの際に体を支えたり休憩したりする、歩行補助のための押し車だ。
    二万円前後のものだが、いいものになると腰掛けもついているし、段差スルー機能も設けられている。

    兄嫁と相談し、母の日にプレゼントすることにした。青色系のかわいらしい花柄をあしらった、腰掛もついているタイプだ。
    「でも、兄嫁に聞いたらそれからが大変。うちの祖母、素直じゃないんですよ」

    いらないよ。
    こんな年寄りくさいもの、嫌だよ。

    ちょっと使ってみて。
    嫌だったら私が使うから。
    やだよ。そんなもの使うほど年は取っていないよ。

    「ねえ、私たち、おばあちゃんをきずつけてしまったかしら」
    兄嫁からそんな困惑した電話も受けた。

    おばあちゃんが見向きもしなかったシルバーカーに目を向けたのは、母の日から一ヵ月も過ぎようというころだった。
    外に出ていて段差にけつまずき、膝と手に擦り傷を負ったのがきっかけだったらしい。
    フローリングの廊下で、外出時には必ず、何度も何度も試してから使うようになったのだ。

    使ってみればこんな安心なものはない。
    年寄りが一人で買いに行っても、持ってかえるには重くなってしまうこともある大好物のフルーツも簡単に運べるようになったと、一人で買い物に行くようになっている。

    「おばあちゃんたら、あんたは私より年なんだからと、おじいちゃんに杖を買ってあげたんです。
    おじいちゃんも初めはかたくなに断っていたらしいんですけど、今は杖をステッキと呼ぶことで納得しているんです」

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